2020.12.14
FEATURE
改めてTRICKER’Sに魅了される時
1829年創業。昨年、創業190周年を迎えたトリッカーズ。
創業以来、長い歴史の中で培ってきた職人の技術と、ものづくりに対する真摯な姿勢を脈々と受け継ぎ、今に伝える稀有な存在です。
創業から190年を超えた今でも、世界中で支持され、最高級靴のトリッカーズという名声を維持し続けています。
そんなトリッカーズの中でも、とりわけ人気の高い定番モデル、カントリーシューズのバートン。
英国の上流階級がハンティング(狩り)に出かける為に生み出されたとされるカントリーシューズ、野外を歩き回る為に生まれた言わばアウトドア用シューズ。
故に当時の機能性を重視した仕様が随所に施されています。
まず目に飛び込んでくるのは、全体に施された大きめにパンチングされたブローギング。
濡れた場所を歩行する際に排水し易いように施された事が起源とされています。
広めに張り出したコバは、車のバンパーの様に作用し、アッパーが傷つく可能性を軽減し、ストームウェルトは水を侵入しにくくする役割を果たします。
そしてしっかりと取られたトウスプリング(つま先から床面までの距離)。
トウスプリングがしっかり取られている靴は、前に蹴りだす際につま先が地面に引っかかりにくく、前方への移動がスムーズに行えます。
また高い耐久性を約束されたダブルソールの仕様は、地面をしっかりとつかみ、衝撃を和らげる。正に歩き回る事に特化した仕様だという事になります。
当時の動きやすさを求めた構造や機能性を伴う数々のディテールは、現在において同じ機能を有しつつも、時代の流れと共に「機能美」へと昇華されてきました。
意味のある仕様と意味のある構造に裏打ちされた機能美により、他の追随を許さない本物の風格と独特のムードをまとう事に成功しており、トリッカーズを唯一無二の存在へと押し上げる要因となっています。
さて、ディテールの宝庫と言わんとばかりに数々の仕様が施され、靴そのものの存在自体が非常に力強いトリッカーズのカントリーシューズですが、この要素だけではここまで長い年月、世界中で支持されなかった事でしょう。
靴に限らず、洋服もそうですが、これまで数多くのブランドやファクトリーが時代のふるいにかけられ現在まで残ってこれませんでした。
そこにきてトリッカーズ。現在においても、世界中から支持される理由はどこにあるのでしょうか。
それは、使い手に決定権を委ねているという点だと考えます。
これだけ力強いプロダクト、群を抜く個性にも関わらず、使い手にとって自由度が高いという点です。
二つの視点から見ていきましょう。
まず一つ目の視点。
手に入れた瞬間、所有したことによる高揚感は格別なことでしょう。
しかし、乱暴な言葉かもしれませんが、履き下ろす前のトリッカーズのカントリーシューズは未完成です。
ここから完成への道のり、文字通り共に歩む道のりが始まります。
質実剛健という言葉がしっくりくるタフで堅牢な作り。
履きこむ事で徐々に足に馴染んでくることはもとより、どんどん履く事でシワが入り傷がつきフォルムのメリハリがはっきりとしてきます。また同時にお手入れを繰り返す事で、革の風合いも変化してきます。
苦楽を共にし、長い時間をかけて、使い手それぞれの個性が反映された、世界で1足だけのトリッカーズに育つのです。
これだけ装飾性の強い完成されたデザインの靴をさらに自分好みに、長い時間をかけて変化させていける楽しさは、所有した人だけが味わえる至福の時間と言えるでしょう。
二つ目の視点。
歩くための道具でありながら、ファッションアイテムとしての側面も忘れてはなりません。
個性の強いプロダクトは、ある意味で容易く記号化され、着用するだけでスタイリングが成立します。しかし、この場合、皆画一的で横並びな着こなしとなる事が往々にして起こります。使い手の個性が反映されない一部のプロダクトは、時代の波にのまれ、流行という言葉でまとめられ、一過性で終わってしまう事は今までの歴史が証明しています。
アメカジ、モード、アウトドア、ストリート、トラッド、オーバーサイズなどなど、時代ごとに流行となるスタイルは異なりますが、トリッカーズは時代ごと、スタイルごとに表情を変えそれぞれの足元を飾ってきました。
群を抜く個性で足元を飾ることが出来るトリッカーズのカントリーシューズですが、靴単体の個性とは裏腹に様々なスタイルとの親和性が高いのが特徴です。
例えばデニムとの合わせ方ひとつとっても、Levi’sに代表されるようなシルエットにもなんなくはまり、すっきりとしたテーパードシルエットにも好相性、はたまた現在のオーバーサイズなワイドシルエットにもはまるでしょう。
デニムに限らず、デザイン性の強いサルエル調のシルエットとも親和性があり、ドレッシーなスラックスとも合わせる事ができる。
つまりトリッカーズのカントリーシューズは、多角的に表情を捉える事ができ、使い手にとって合わせ方の自由度が高い靴である、使い手の個性を反映する事が可能な靴という事です。
これを時代を越えて成しえる靴はなかなかありません。
ある時はトラッドに、ある時はカジュアルに、ある時はアバンギャルドに。
英国靴本来の朴訥とした雰囲気に、先に述べた本物の風格、ある種独特のムードを併せ持つが故に成せる業。
これらはcomme des garconsをはじめとする数々のファッションブランドとコラボレーションしてきた事からもその一端が伺えます。
何も考えずにさっと履けば、あらゆるスタイルに馴染み、同時に「今日はどのスタイルに合わせるか」といった足元から始まるコーディネートも楽しめます。
靴単体として強い個性を持ちながら、それだけに留まらず、使い手の個性をも引き出してくれる存在だからこそ、長い年月、世界中で支持され続けているのです。
そして、それを支えるのは厳選された素材を、脈々と受け継がれてきた技術で、真摯な姿勢で作り上げるという事。
現在、我々を取り巻く環境は大きく変化し、それぞれの価値観もライフスタイルも全てにおいて大いなる転換期を迎えました。
物に対する見方は変化し、本質を見抜く力がより一層必要になったと感じています。
このような時代だからこそ、時代を越えて愛される物、ブレ無い姿勢で作られた物が改めて目に留まります。
トリッカーズに魅了される事は、今の時代の必然なのかもしれません。
TRICKER’S 品番:M5633 モデル名:BOURTON
- 素材:Calf
- 色:Acorn
- 底材:Dainite
- 製法:Goodyear
- ウィズ:5
- 価格:¥84,700(税込)